カン。カン。カン。定吉の家の仕事場から、刀を鍛える音がする。といっても、町から少しはなれた小さい家で、鈍(なまくら)を作っているだけなのだが。
自分にとって親父が刀作りの師匠だ。江戸の刀店「薩摩屋」をお得意さんにしているということは、なかなかの腕前らしい。
定吉は刀作りがうまくいかなかったが、確かに父は良い刀を作っていた。
今日は、まだ二十歳にもなっていない自分のせがれ売るための刀を作らせるつもりらしい。
しかし、これでは、安かろうまずかろうと同じだ。正直、自分に売り物になる刀を作れる自信はない。
定吉の親父は頭を抱えて部屋を出た。とうの定吉は、ひと働きの後の朝飯を食べていた。食事が終わるとまた鍛冶場へ戻り、今度は槍の先を作っていた。
父は部屋にこもって出てこない。しばらく一人で槍の先をたたいていた。
窯の中に入れ、ひたすらたたき、また窯に入れてたたき続ける。単純な動作だけに、時間を忘れてやっていた。
「ちょいと、薩摩屋のもんだが・・・」
不意の来客に驚いた。すっかり忘れていた。今日は薩摩屋に刀と槍を売る日だった。今は何刻だ。槍がまったくできていない。今たたいているのは、相当鋭利になっていたが、ひとつでは話にならない。そんなことを考えていると、親父が上から降りてきた。すると、刀と槍、それにたくさんの脇差を鍛冶場に置いた。
「お、いい脇差だのぅ」
「でしょう?昨日の夜、たくさん作ったんですよ。」
薩摩屋の使いと親父が話している。そうか、事実俺は刀と槍を作り終わってない。親父は昨日の夜に作っておいたんだ。俺にはそんなにたくさん作れないと思って。
悔しいが、ここは親父に感謝するしかない。薩摩屋の使いが帰ると、親父はこっちに来た。何を言うのかわからなかったので、少し不安だった。
しかし親父は俺の槍を見ると、「ほお・・・」と、感心したような、莫迦にしたような顔をして、また二階に上っていった。なんだか悔しいので、いよいよ強く槍の先をたたき続けた。悔しいが、もう暮六ツなので、親父と仕事を交代することにした。 |